デザイナーフーズ計画
特定の食品ががん予防に役立つ――そんな期待を背景に、1990年にアメリカ国立がん研究所(NCI)は「デザイナーフーズ計画」を立ち上げました。この計画は、毒物学者ハーバート・ピアソン博士(Herbert Pierson, Ph.D)の主導で開始され、2000万ドルもの予算を投じた壮大なプロジェクトでした。
主な目的は、がん予防に有効な植物性食品成分(フィトケミカル)を科学的に解明し、それを加工食品に応用することにありました。選ばれた食品群は「デザイナーフーズ・ピラミッド」として公開され、がん予防のための食事ガイドラインとして注目を集めました。
この計画は予算の問題から現在は終了しているものの、その成果は疾病予防において依然として重要な意味を持っています。
デザイナーフーズ・ピラミッドの構造
選ばれた食品を重要度順にピラミッド型に並べた「デザイナーフーズ・ピラミッド」。その構造を見てみましょう。
ピラミッド上位の食品
ピラミッドの頂点には、にんにく、キャベツ、甘草(リコリス)、大豆、ショウガ、セリ科の植物(ニンジン、セロリ、パースニップ)が配置されています。これらの食品は、ポリフェノールやカロテノイド、含硫化物といったフィトケミカルを豊富に含み、がん予防効果が最も期待されています。
中段にはタマネギ、お茶、ウコン(ターメリック)、玄米、全粒小麦、亜麻、柑橘類果実(オレンジ、レモン、グレープフルーツ)、ナス科の植物(トマト、ナス、ピーマン)、アブラナ科の植物(ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ)が続きます。
下段にはマスクメロン、バジル、タラゴン、カラスムギ、ハッカ、オレガノ、キュウリ、タイム、アサツキ、ローズマリー、セージ、ジャガイモ、大麦、ベリーが含まれています。
フィトケミカルの役割
デザイナーフーズ・ピラミッドにある野菜や果物は、フィトケミカルと呼ばれる非栄養素(6大栄養素以外の微量成分)を含んでおり、これらががんの予防に重要な役割を果たしていると考えられています。例えば、ポリフェノール(アントシアニン、カテキンなど)、カロテノイド、含硫化物などが含まれています。
- ポリフェノール:アントシアニン、カテキンなど。抗酸化作用が強く、細胞の酸化ストレスを軽減します。
- カロテノイド:リコピン、ベータカロテンなど。発がん物質の解毒を助ける可能性があります。
- 含硫化物:にんにくやタマネギに含まれる成分で、免疫力を高める働きがあります。
科学的根拠と効果
デザイナーフーズ・ピラミッドの野菜や果物の選定は、疫学的データに基づいて行われました。多くの研究により、特定の食品ががん予防に与える影響が明らかになっています。
例えば、にんにくに関する研究では、定期的な摂取が胃がんのリスクを低下させることが示されています。また、大豆に含まれるイソフラボンは、ホルモン依存性のがん(乳がんや前立腺がん)を抑制する可能性があるとされています。
さらに、緑黄色野菜や柑橘類に含まれるビタミンCやフラボノイドも、抗酸化作用を通じて細胞損傷を防ぎます。これらの成分は、がんだけでなく、心血管疾患や糖尿病のリスク低減にも役立つとされています。
日常生活への取り入れ方
これらの野菜や果物を効果的に活用するには、日常の食生活に取り入れる工夫が重要です。以下に具体的なアイデアを挙げます。
食事に取り入れるアイデア
- にんにく:すりおろしたにんにくをドレッシングやスープに加える。
- キャベツ:キャベツを生でサラダにしたり、スープや炒め物に使用する。
- 大豆:豆腐や納豆、味噌汁など、大豆製品を日常的に摂取。
- トマト:生のトマトをサラダに、またはトマトソースとしてパスタや料理に使用。
- ブロッコリー:蒸してサイドディッシュに、またはスムージーに加える。
簡単レシピ
- にんにくとキャベツの炒め物:オリーブオイルでにんにくを炒め、キャベツを加えて軽く塩で味付け。
- トマトとブロッコリーのスープ:トマトジュースをベースに、ブロッコリーや玉ねぎを加えて煮込む。
まとめ
デザイナーフーズ計画自体は現在終了していますが、その成果は疾病予防の観点からも重要です。バランスよく食事をすることが疾病予防につながることが強調されています。ピラミッドに基づいた「1日5皿分以上の野菜と、200gの果物を食べよう」という“5 A DAY(ファイブ・ア・デイ)運動”は、アメリカで野菜の摂取量を増やし、がんによる死亡率の減少に貢献しました。
デザイナーフーズ計画の成果を活かし、日々の食生活にこれらの食品を取り入れることで、健康的な未来を目指しましょう。次回の記事では、日本における機能性食品の展開について詳しく解説し、デザイナーフーズとの共通点や相違点を探っていきます。